日だまりのような物語がひとつ出来た

(はずだった)

その原稿がどこにも見あたらない

内容もよく思い出せない

ごごの うたたねの ゆめだったろうか

   午後のふゆ

日あたりのよい縁側のような小部屋で

父の揺り椅子にもたれて

いろいろな「物語り」を読んだ

「サーカス」や「逝く昼の歌」など読んだ

 

父の痩せた背には

沈黙の草叢がぼうぼうとし

ときおり

不文律に揺れていた椅子も

やがて なくなった

あやういサーカスも歌も ごごの雲とともに

うっすら 遠ざかっていくようだった

 

   略    

 

父の背の影も ほんとうに

あったのだかどうだか

じぶんさえ 此処にたしかに

いるのだかどうだか

もう一作 自分でも比較的 好きな詩

 

   みぞれ

 

しずかな そのしずむような むら

ひるも よるも

そらも じめんも

あさも

いちめん 濡らし 濡らしつづけて

つめたい こおるまえの

氷滴が 落ちて 溶けて

むらじゅうが じんじん

しずんでいる

 

そこかしこから わずかに

いろどりが にじんで

そこに ひとが いきて

暮らしているのだ と

じんじん 垂れて落ちて溶けて

濡れて

 

ここへ なにをしにきた

なにをするために きた

 

どこからきて どこへいく

そのまえに

なにをしに うまれてきた

 

ひがな つめたい こおるまえの

氷滴は うまれては 落ちてきて

きえていく

かたちのみえない しずんだ

むらじゅう

濡らし 濡らしつづけて

 

うまれては きえていく もの

そのなか わずかに にじんでいる

いろどり

陽のさす

春の まえの

 

個人詩誌バックナンバーより抜粋*

 

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