2014.04.10 天 の 舟
 
四月は喪の月である。


 桜花・咲き揃ったかと思えば、じき、はらはら、
花びらが散りはじめる。

     さく
        ら
     は 
                       な  
          
        は
       ら
                 は 
                                          ら
        
                     は  
                ら、

             は、 

                        ら、
 
     はらはらはらはらはらはらはら、、、、、、

 薄い花びらが風に吹かれて ただ儚く 散ってゆく。

 
 数年前・四月
 あのとき、
昏い螺旋をとめどなく落下しているような
先の見えない昏いトンネルのなかで蹲っているような

かなり心は行き詰まっていた。



 後で振り返れば、左程、長い年数ではなかったが、
その頃は ほんとうに
長い長いトンネル
昏い昏い螺旋の渦中
にいるように思えた。


 

術中の事故で夫は多数の後遺症を負う身となった。


 手術後、数日間意識が戻らず、
目醒めた夫は以前の夫ではなかった。
二度と元には戻れない身体になった・・・、

本来の病変に加え、それら後遺症との過酷な試練の日々が
つづくことになる。

それでも持ち前の気力が少しずつ戻り、少しずつ持ち直し・・・
数か月後には退院。
 不自由な身ながら、温泉へ家族旅行もし、好きな野球にも
 弟に連れられ応援に出かけた。 

 

が、うだるように暑かった夏・再発。
本来の病変ではない、手術ミスで詰まった脳の血管が再び
詰まったのだ。

救急車で搬送、ICUで生死をさまよった。

以降、再発・入退院を繰り返すこと九回に及ぶ。
 病との壮絶な闘いだった。
家族も心休まることのない日々・・・。



四月・伴侶が数度目かのベッドで伏す状況のなか、
わたし自身が参っていた。
じぶんがじぶんでないような
悪夢のなかに埋ずもれているような

どうにも出来ない状態に陥ってしまっていた。



一日だけ病院へ行くのを休んで、歩いて歩いて、
日の暮れるころ、F・パークのしだれ桜の咲き揃う前に
着いた。
元気なころは家族で見に来た桜だ。

少しずつ花びらが散りかけていた。
はらはら、はら、風に吹かれて舞い散る薄い花びらを
じぶんも風に吹かれながら眺めた。

眺めながら
ここ数年、昏い淵を彷徨ってきた自分を
吹っ切ろう
と 思い決めた。


・・・この先、なにがあっても受け入れよう・・・



病院へ行かなかった一日のあいだに夫は、重篤な患者の入る
ナース室脇の病室に移っていた。
肺炎を併発、
呼吸も苦しくなり酸素マスクが付けられた。


ドクターやナースに止められるのも構わず、F・パークで
買ってきた苺やリンゴなど夫の好きな果物を酸素マスクを
ずらしては
口に運んだ。

・・・ う ん、  美 味 い!


痛みや苦しみは点滴薬剤などで回避されているようだった。


・・・ もう    どこも わるく ないよ ・・・
・・・ 良く なったよ ・・・


けれど、再び持ち直すことはなく、
数日後 

―― うちに  かえりたい ――

最後のことばを遺して、還らぬ人となった。





      
             ☆
 
     天 の 舟       

海につづく天(そら)なら
きっと舟で行ける


炎の炉潜った台の舟
はらはら ほろほろ
白く透きとおる貝の骨
ひとがたに積んで
これから
天空への航海がはじまる
終わるのではない

桜吹雪の舞うのを待ち
六十回目の巡りを見届けた
子らをはぐくんだ両の手の
櫂を操り

舟は此の岸を離れ
天の向こうにつづく海へ


還ってゆく





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