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      九月―彼岸花の咲く家

 

 

山の道 峠の道

なんど くりかえし 辿ったことだろう

 

小高い山の上から下った途中の林の

茂みに隠れるように

青いとんがり帽子の屋根を乗せた

その家が あった

 

茂みをかき分け、細い草の小道を辿ると、

茶色の犬が小屋のなかから 迎えてくれ

庭の手入れに余念のない おじいさんの皺の手

が ゆったり動くのが見える

 

小さかった二人の娘の送り迎え

に その小道を通った

ときには 犬も道連れに

娘たちが 習字のお稽古しているあいだ

あっちの犬 こっちの犬

頭を撫でて 遊んで

 

そうして お稽古の済んだこどもたちの

にぎやかな声がすると

犬たちは いっせいに尻尾をふる

庭の脇にある井戸のお水を 拝借

犬に水を飲ませ

また 山道 峠道 

を くだる

 

藪や草の原のかげに 季節の花が

遠慮がちに咲いていたりした

秋になると 

庭への曲がり角に突然 赤い花が ぽっ ぽっ
燃え出てきた

 

「ヒガンバナ だよ」

こどもたちといっしょに

群生する真っ赤な少し寂しげな花を 少しばかり

摘ませてもらった

 

それから 何年か

おじいさんがいなくなり 

また 何年か 

お習字を教えてくださった 凛としたたたずまいの

女先生が消え

その家はがらんどうになった

青いとんがり帽子の屋根は

空に  高く高く 姿を見せていたが

 

やがて家は 藪や木々に埋もれ

小道も見えなくなり

 

その後も 秋が来ると

峠の途中の 脇の茂みのそこ  ほら

燃える寂しい赤い花が   ぽっ ぽっ

見えてくるのだった

 

 


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